2022年8月2日より、ビットコイン、イーサリアム、ビットコインキャッシュ、ライトコインがその場で日本円に両替できるサービスが開始しました。
株式会社ガイアが設置したBTMとよばれる暗号資産の自動両替機は、MetaMaskなどの暗号資産ウォレットと接続し、ウォレットに入っている暗号資産を直接日本円に交換することができます。

画像出典:株式会社ガイア
普段から暗号資産にふれている人にとっては、より暗号資産の利便性が向上するサービスだとして好意的に受けとめられています。
その一方で、暗号資産に馴染みのない人の目には「機械から現金が出てくるだけのサービスならば、銀行のATMとなんら違いがないのでは?」と映っているようです。
しかし実際は、暗号資産両替機と銀行のATMはまったく構造が異なります。
この記事では、暗号資産両替機と銀行ATMの違いを通じて、暗号資産が持つ重要な特徴について解説します。
暗号資産両替機と銀行ATMの違い
まずはじめに、ガイア社が設置した両替機であるBTMと、一般的な銀行のATMの違いについて理解しておきましょう。
BTMとATMの最も大きな違いは以下の通りです。
- BTM:自分のウォレットに入っている暗号資産を日本円に両替する機械
- ATM:銀行に預けてあるお金(日本円)を引き出す機械
実はBTMとATMの違いは、本質的にはこれしかありません。銀行口座はほとんどの人が持っているはずですので、まずはイメージしやすいATMの仕組みから解説します。
銀行とATM
わたしたちは、日本円を銀行に預けるという行為を日常的に行っています。そして銀行に預けたお金は、預けた瞬間からわたしたち(預金者)のお金ではなく、銀行のお金になります。
正確に言うと、預金は銀行の管理下に置かれることになり、預金者の管理下から離れます。
もちろん、これは管理者が変わっただけのことであり、そのお金の持ち主は預金者自身であることは間違いありません。
しかし、ここでもしお金を預け入れている銀行が破たんした場合はどうなるでしょうか。
日本では一般的に銀行が破たんした際も、1,000万円までは預金が返ってきます。しかしこれは裏を返せば、1,000万円超のお金については本来の持ち主である自分の手元から消失することを意味します。
また破たんまでは行かなくとも、銀行はいつでも個人の銀行口座を凍結し、預金を引き出せないようにすることができます。
つまりわたしたちは銀行というサービスを利用することで、自分の財産を管理する権利を銀行に委ねてしまっているのです。この文脈においてATMは、「管理者である銀行からお金を返してもらうための機械」であると言えます。
暗号資産ウォレットとBTM
一方、暗号資産ウォレットとBTMの関係はまったく構造が異なります。暗号資産ウォレットには「誰かにお金を預かってもらっている」という概念がありません。
たとえば、ウォレットに10万円分のビットコインを入れていたとしましょう。この時、ビットコインの持ち主=自分自身であるのと同時に、ビットコインの管理者も自分自身です。
ウォレットにビットコインを入れている状態は、いわばお金(現金)を自分のリアルな財布に入れているのと同じ状態です。つまり現物はなく、デジタルなデータのみが存在する世界となっています。
しかしその構造は、「リアルな財布を管理しているのは自分だけ」であるのと同じように「暗号資産ウォレットと、その中のビットコインを管理しているのは自分だけ」という形になっています。
銀行のような他者の管理を受けることはありません。自分だけが管理できるバーチャルな財布が、インターネット上に存在しているイメージです。
したがって、銀行が破たんして資金がなくなるようなこともなければ、意図的な凍結を受けて資金が引き出せなくなることもありません。そしてこの文脈におけるBTMの役割は、自分が管理している財布の中のビットコインを日本円に両替するだけです。
決して、他の管理者からお金を取り戻したりするわけではなく、ただ「自分が持っているお金(暗号資産)を他の通貨(日本円)に両替するだけ」のことなのです。
中央集権的な管理者がいない世界
暗号資産とそのウォレットの管理者は自分だけであり、他者の管理を受けることはありません。そしてこれは、最近耳にする機会が増えた「Web3」を象徴する概念でもあります。
今わたしたちが生きているインターネットの世界はWeb2と呼ばれる、中央集権的な管理者が存在する世界です。日常的な範囲では、まさに銀行はわたしたちのお金を管理している管理者です。
また、世界を支配している管理者としてよく語られるのは、GAFAのような巨大テクノロジー企業です。彼らはユーザーの個人情報を徹底的に収集しています。そして、その情報を活用することでユーザーの日常生活の大半を自社サービスで埋め尽くすことに成功した、現代の支配者です。
このような特定の企業や組織による管理から免れようとして生まれたのが、中央集権的な存在を排除するWeb3の概念です。その代表的な技術が、管理者の手を離れて「個人が自分の責任で管理できるお金」である暗号資産です。
ただの両替機に見えるBTMですが、その背景には現代社会のあり方を根本から変えようとする思想が流れているのです。