ステーブルコイン規制の法案が参院通過!その背景と日本の暗号資産市場への影響は?

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2022年6月3日、改正資金決済法が参院本会議で可決・成立しました。

これにより、日本は世界に先駆けてステーブルコインを規制する法律を定めたことになります。

いま話題のWeb3領域において、日本は遅れをとっています。今回の法改正で、ますます日本のWeb3・仮想通貨産業の成長が阻害されるのではないかと不安視する声もあります。

一方、5月にはステーブルコインのUST、及びUSTの価格維持アルゴリズムで使用されていたLUNAが大暴落し、一夜にして資産を失った投資家も少なくありません。このため、ステーブルコインの規制は厳しくすべきだという主張もあります。

この記事では、ステーブルコインに関わる昨今の事情を踏まえ、今回の日本のステーブルコインに関する法規制について考察します。

今回の法改正の狙い

法改正の主な目的は2つあります。投資家保護とマネーロンダリング(資金洗浄)対策です。

ステーブルコイン自体は価格が安定した資産です。しかし、先日暴落したLUNAの事件にも見られるように、価格を安定させている仕組み自体が100%崩壊しないとは言い切れません。

また、価格が安定しているがゆえに、ステーブルコインが決済で使われる機会は増えると予想されます。利用される機会が増え、流通量も増えれば、マネロンに利用される可能性も高まります。

参院を通過したタイミングから、「LUNAの件を受けて、取ってつけたように法規制が強化された」と思われがちですが、決してそうではありません。今回の法改正はあくまで、従来から行われていたステーブルコイン関連の法整備の一環だと理解した方がよいでしょう。

規制の背景にあったのはLibra(リブラ)

2019年6月、メタ社(当時はフェイスブック)が立ち上げたLibra(リブラ)というステーブルコインのプロジェクトがありました。

Libraプロジェクトはすでに撤退が決まっていますが、日本ではLibraが公表された頃から、将来を見据えてステーブルコイン関連の法律を整える動きが見られました。

2021年7月には金融庁内にデジタル分散型企画室と呼ばれる専門の部署ができました。DeFi(分散型金融)とステーブルコインをターゲットにした規定を作ることを目的とした部署です。

このように、ステーブルコインに関連する法整備は約3年前から議論されており、それが成立したのがたまたま今のタイミングだったということになります。

2021年以降、急速にWeb3やNFTなどのワードが叫ばれるようになったため、このタイミングでの法改正は、産業の成長を阻害するものと受け止められがちです。しかし実際は、イノベーションを阻害しないように考えた上で、あくまで投資家保護とマネロン対策に重きを置いた改正になっています。

法改正から読み取れる今後の具体的な動き

では今回の法改正の中で、一般投資家にも影響する具体的な改定内容にはどのようなものがあるか見てみましょう。

ひとつには、「USDCなど海外産ステーブルコインの日本での流通は実現しない」ことがほぼ確実なったと見られています。これは投資家保護の目的に沿うものです。

国内でステーブルコインを流通させる場合、以下の2点が外せないポイントとなるようです。

  • 発行体が日本国内にあること
  • 裏付け財産が日本国内で保全されていること

たとえば、USDCを発行しているのはアメリカのCircle社です。発行体はアメリカにあり、裏付け資産の米ドルも当然アメリカ国内にあります。

仮にUSDCを日本で流通させ、万が一Circle社が倒産した場合を考えると、果たして日本の利用者にまで資産が返ってくる保証はあるでしょうか。

Circle社がUSDCの裏付け資産を保有していることは間違いありません。しかし、資産が保全されているのはあくまでアメリカ本土です。「日本の利用者には正しく返還されないかもしれない」と不安を抱くのはおかしなことではなく、海外のステーブルコインを日本で流通させるのは危険だという発想も納得がいきます。

そして、海外のステーブルコインの流通を制限する裏には、国内のステーブルコインを扱う事業者をより台頭させていく姿勢も垣間見えます。

これまで、信託会社と呼ばれる業態の企業は、ステーブルコインを発行することができませんでした。しかし今回の改正で、信託会社が預金を裏付けにしてステーブルコインを発行できるようになりました。この点は明確に規制緩和であり、すでに三菱UFJ信託銀行などが日本円連動型ステーブルコインの発行に向けて準備を進めている動きもあります。

昨今の急速な環境変化の中、日本の法律関係の動向は場当たり的に見えることもあります。ですが実際は、国内のWeb3産業の中長期的な成長に貢献すべく、規制の強化と緩和を適切に考えて下された判断も多数あります。

今後も暗号資産やWeb3関連の法改正が公表された際には、プラス・マイナスの両面を正しく捉えることを心がけてみてください。