株式会社モスフードサービス(モスバーガー)は、この秋に話題となった「月見フォカッチャ」の発売にあわせ、モスバーガー初の仮想店舗「モスバーガー ON THE MOON」をメタバース空間にオープンしました。
実はいま、飲食業界の企業によるメタバース参入が相次いでいます。アメリカでは、モスバーガーと同じくハンバーガーを中心に外食事業を展開するウェンディーズが、すでにメタバースでのビジネスに取り組んでいます。
しかし、飲食業というのは「リアルな食べ物」ありきの世界です。メタバースの中で仮想のハンバーガーが提供されても、私たちの空腹が満たされることはありません。そう考えると「メタバース×飲食」というのは相性があまりよくないように見えます。
この記事では、一見するとメタバースと親和性がなさそうに見える飲食業界が、あえてメタバースに参入することで生み出される効果について考えてみます。
【メタバース×飲食が生み出す効果その1】接客体験の向上

まずは、接客体験の向上です。
ここで言う接客体験とは、すでに飲食業界で取り入れられている「UberEats」のような「デジタルデバイスを介した顧客と店舗の接点」を指します。
UberEatsや出前館などのサービスのおかげで、私たちがリモートで食事をオーダーする際の利便性は飛躍的に向上しました。
一方で、スマホによるオーダーシステムは店舗で直接注文をする場合に比べて劣る点もあります。
例えば、食品に含まれるアレルギー物質を直接店員に聞いて確認したり、自分の苦手な食材を抜いて注文したりといったきめ細やかな対応を受けることは、現在のスマホのみのオーダーシステムでは困難です。
しかしメタバースの中で注文をする場合、顧客と店員が同じ仮想空間内に存在し、そこでコミュニケーションをとることができます。
スマホで一方的に注文をするのではなく、バーチャル空間に客も店員も一緒にいることによって円滑な双方向のコミュニケーションが実現します。
【メタバース×飲食が生み出す効果その2】顧客同士のコミュニケーション

昨今、感染症の影響で私たちは他人と一緒に外食をすることができない状況を体験しました。
いつかまた同じような悲劇が起こる可能性もゼロではありません。
しかし飲食店がメタバースを導入することで、たとえ感染症が蔓延した状況下においても、私たちは他者とコミュニケーションを取りながら食事を楽しむことができます。
ハンバーガーショップを例に考えてみましょう。
まず、私たちは自宅からメタバースに接続して食事をオーダーします。
食事が自宅に届いたら再びメタバースに接続し、メタバース内のハンバーガーショップで自分の席を確保します。
これではただ1人で食事をするのと変わりませんが、ここは誰もがアクセスできるメタバースです。
つまり、物理的に離れた場所にいる家族や友人など、一緒に食事をしたい相手が同時にメタバースの店内に入り、あなたの目の前の席に座って一緒に食事を楽しむことができます。
今はまだパソコンでメタバースを利用するケースの方が多いと思われますが、今後VRヘッドセットなどが普及することで、より深い没入感を伴ったメタバース内の食事体験ができるようになるはずです。
【メタバース×飲食が生み出す効果その3】体が不自由な顧客の利便性向上

メタバースが飲食業にもたらす可能性がある効果、最後は「体が不自由な顧客の利便性向上」です。
これは実際にあった話ですが、ある飲食店で毎回必ず電話で出前を注文をしてくるお客さんがいました。
頻繁にオーダーをしてくる割に、必ず電話でオーダーをしてくるのが不思議だったそうです。
ところが、そのお客さんが家族と一緒に実際にお店を訪れた時、その理由がわかりました。
そのお客さんは事故で視力を失ってしまい、パソコンやスマホを使って注文をすることができなかったのです。
音声ならコミュニケーションが取れるため、必ず電話で注文をしていたとのことでした。
体に何ひとつ不自由な箇所がない人は、高齢者やケガをした人が感じる不自由さを見落としがちです。
一般的には便利なものとされるネットを利用したサービスも、彼らにとってはそもそも利用することができない場合もあります。
この状況を改善できる可能性を秘めているのがメタバースです。
例えば、ケガをして手でうまくスマホを操作できない人も、VRヘッドセットをつけてメタバースに入れば、視覚と聴覚だけで店員とコミュニケーションを取ることができます。
先ほどの目が見えない人の事例はやや解決が困難かもしれませんが、目は見えなくとも微弱な光は感知できる程度の人であれば、VRヘッドセットの中で光を明滅させることでコミュニケーションが取れるかもしれません。
あるいは、電話と異なり左右の耳で音声を聞き分けられることを利用して、より円滑なコミュニケーションを実現できる可能性もあります。
このように、メタバースの技術を飲食業界に導入することで、既存の顧客体験の向上や課題解決につながる可能性は十分にあります。
メタバースの普及自体にもまだ時間がかかると思われますが、「メタバース×飲食業界」が生み出す効果は私たちの想像を超えたものになるかもしれません。